「ゆれる」「永い言い訳」など、人間の弱さや葛藤を鋭く切り取ってきた広島出身の西川美和監督。最新作「わたしの知らない子どもたち」は、終戦直後の東京を舞台に、戦争孤児となった少女・琴子が自らの性別を隠しながら懸命に生き抜く姿を描いた作品です。トロント国際映画祭プラットフォーム部門のオープニング作品にも選ばれた本作に込めた思いを、監督に語っていただきました。
■「小さな命ががむしゃらに生きようとする姿」を伝えたかった
――主人公・琴子を通して、この映画で一番描きたかったものは何でしょうか。
まず描きたかったのは、親や家を空襲で失ってしまって、何もない状態になりながらも、幼い子どもたちが誰からも手を差し伸べられなくても、なんとか自分たちで生きようとした――生きるしかなかったという状況が、80年ちょっと前の日本にあったということです。改めて、そんなひどい状況があったんだなという思いもありました。
逆に言うと、そういう状況に置かれたときに、幼くて弱い存在である子どもたちがそこまでしてでも生きようとした、そのバイタリティといいますか、そこはもしかしたら今の私たちには失われてしまっているんじゃないかなという思いもありました。彼女を通して、その小さな命ががむしゃらに生きようとする姿を、見ている人に伝えられればと思いました。
――映画には厳しい場面だけでなく、人の温かさや希望を感じる場面も多くありました。そのバランスは意識されましたか。
戦争の悲惨さや重たさをきちんと継承するというテーマ以外に、やはり子どもたちがいかに強く生きたか、その子どもたちがいかに逆に大人たちを鼓舞させる、勇気づける存在であるかを、きちんと映し出せればと思っていました。とにかく、子どもたちが生き生き見えるように演出をしてきました。
主人公の琴子は、ほんとうに普通の暮らしをしていた女の子が何もかも奪われ、たった一人になるところから始まるわけです。ずっとつらい目に遭いながら東京の街で生きていくわけですが、やはり、見てくださるお客さんにも何かしらの希望を見出してほしいと思いました。
自分と血のつながらない遠い地域にいる子どもたちにも、食べること・安心して眠ること・良い環境で教育を受けることを大人たちが工夫しながら整えていく、そういうことを見ている人にも一度共有してほしかった。そのために、田中裕子さんにも温かい布団にくるまるようなシーンを演じていただきました。
■タイトルに込めた「私」の意味
――「わたしの知らない子どもたち」というタイトルには、どのような思いが込められていますか。
はじめは私が小説から書き始めた物語だったので、「わたしの知らない」の「わたし」は、私自身の一人称なんです。
私は広島で育って、被爆者の方の話を聞いたり、広島原爆の現実にいくらか触れる機会の多い環境で育ってきました。ですが、じゃあ広島以外の地域にどれくらい空襲の被害があったか、広島以外の地域の子どもたちがどうだったかということは、きちんと映画にするぞと思って自分で調べてみるまで、ほとんど知らないことばかりでした。
知っているつもりでいる人間こそ、知らないことが多いと痛感しました。そのまま私自身の一人称でタイトルにしましたが、結果的には映画を見てくださる人のほとんどが戦後生まれになるはずで、きっと見てくださる方一人ひとりの一人称の物語になっていくのかなと思っています。
■ 広島出身の監督が「角度を変えた戦争の物語」に挑む理由
――広島出身の監督として、戦争をどのような視点で描こうとされましたか。
戦争中の戦場の物語や、空襲・原爆のダイレクトな被害の渦中の表現は、体験された方が描いてきたようには、非体験者の私にはなかなか描けないと、今もそう思っています。
ですが、戦争によって何がもたらされるのかということが、直接的な被害にもまして、長引くことで怖いことでもあると感じています。戦争は起こってしまったその直後だけでなく、そのあとも長く長くいろんな人の暮らしや人生に響いてくる。そこをきちんと描きたいと思って、この時代の子どもたちを描いてみました。
広島・長崎の原爆に関するエピソードは、広島の方々には数限りなく接する機会がおありだと思います。そういう意味では、本作は少し角度を変えた戦争の物語かなとも思っています。
■若い世代へ届けるために
――この映画を特に届けたい方はどのような世代ですか。
一番の狙いは若い人です。中学生とか小学校の高学年ぐらいになれば、親御さんと一緒にでも見に行ってもらえるぐらいの内容を目指しました。とにかく、子どもにでも見てもらえる戦争にまつわる映画というのを目指したので、そういう内容にもなっていると思います。
まずはお父さん・お母さん世代の方に見ていただいて、「これなら子どもにも見せられるかな」と思っていただけたら、次は子どもたちを連れてきてもらう、というのが理想です。戦争のことはいろいろとつないでいかなきゃいけないと思っていても、どういう材料を子どもたちに見せればいいかわからない、と迷っておられる親御さんにも届いてほしいと思っています。
――最後に、映画を見た方にどんなことを感じてほしいですか。
一言では言いづらいですが、今とても世界が危ういと感じます。どうしたらいいかわからない、とみんな思っていますよね。でも、自分の子どもだけでなく、自分の知らない土地の子どもも幸せに生きていけるような、希望的な未来を目指したいなと思っていただければ一番です。
「わたしの知らない子どもたち」は、10月16日から全国で公開されます。