「計画的…反省全くない。平然と過ごしていたこと非難すべき」検察は懲役15年を求刑 事件当時の有期刑最長【記者が傍聴した裁判(4)】広島・福山市明王台殺人事件

広島

2025年2月6日午前11時10分

検察官「それではこれから今回の事件に関する検察官の意見を述べる論告を行います。
今回の事件の争点は、住居侵入・殺人の事件の犯人が被告人であるかどうかの1点です。
この裁判の中でご覧いただいた証拠、あるいは証人尋問でお聞きいただきました証言を基に、
被告人が犯人であることに間違いがないということをこれから検察官として説明をしていきます。
犯行現場から発見された証拠に被告人のDNAが含まれるか。
まず、前提として、被告人と被害者の間には面識はありません。
そこから、事件現場に残されていた血液はまず犯人のものであると言えますから、
この血液のDNAはどういうものかが重要な証拠となってきます。
今回の事件は、今から20年以上前に発生しております。

(中略)

このDNA型鑑定を行った現場の証拠、つまり事件現場で事件当時に付着したと認められる血液について説明します。
事件現場で警察が採取した血液ですが、主なものとしてカタカナのアからエを示しております。
ア【被害者が足に履いていた左足ソックス】
イ【1階居間にあった右足ソックス片】
ウ【台所の流し台にあったヘアスプレーター缶】
エ【階段の下から5段目】
ここにそれぞれ血痕が残されていました。
アは①、②、③の検査、イは①、③の検査、ウとエは①の検査が行われました。
アとイは裁判所で改めて決定が出まして、令和6年に③の検査が実施されております。
次に、鑑定結果でございます。
まず、丸2の検査です。【ア】付着した血液の②の結果ですが、str型が15座位、
アメロゲニン 1座位 全てが被告人のDNA型と一致するという判定でした。
つまり、この検査ですべての座位が一致するのは、最も出やすいありふれた方である場合でも約4兆7000億人に1人という出現方法になります。
地球の人口をはるかに超えていると言えるでしょう。

(中略)

検察官「被告人が犯人であるという立証の2つ目の柱でございます。
1つ目の証拠ですが、被害者の腹部に刺さっていた凶器の果物ナイフです。
これは被害者の家にはなかったものですから、犯人が準備して残していったものです。
この果物ナイフの特徴ですが、柄の部分に(中略)という文字が書かれたシールが貼られていました。
この品名のナイフを製造している会社に問い合わせたところ、(中略)という名前で販売され、(中略)というシールが貼られていること、
調理器具、このギフトセットとしてのみ販売されており、果物ナイフの単品での販売がなされていないということがわかりました。
また、平成2年1月から販売され犯行から2日後である回答日の現在、これも販売が継続しているということ。
販売数については平成5年から平成13年まで、月間数万本単位で販売はされているということです。」

検察官「次に、被告人の関係先の捜索の結果です。令和3年10月25日に、
被告人が当時暮らしていた自宅であります元妻の自宅、そして被告人の自宅、こちらの捜索が実施されました。
まず、犯行当時の被告人型から、果物ナイフ、キッチンバサミ、パン切り包丁が無くなった状態、調理器具、ギフトセットが発見されました。
そして、被告人方からは、(中略)のシールが貼られたキッチンバサミが発見されました。
いずれからも果物ナイフは発見されておりません。
以上の状況から、次のようなことが言えます。
確かにこの果物ナイフの販売数は少ないものとは言えません。世の中にたくさん存在していることでしょう。
しかし、ギフトセットという特殊な販売方法で売られてるものであること。
被告人の犯行当時の家からギフトセットが発見されている
さらには、被告人の自宅からもこの当時の家で見つかったセットから欠けたキッチンハサミが発見された。
つまり、ギフトセットの凶器以外の調理器具は被告人の関連先からいずれも発見されているということです。ここからは被告人がこの凶器の果物ナイフを持っていたことを強く推認されます。」

次に犯行現場に残された犯人の足跡です。
犯行現場側には土足で踏んだ足跡が残されていました。
これは事件の時に付着したものので、被害者が亡くなった階段にもあります。
この足跡のサイズですが、28センチで、運動靴であるということがわかりました。
被告人の足のサイズですが右足が26.2、左足が26センチです。
また、被告人の自宅から発見された靴のサイズを調べたところ、27センチあるいは28センチ、
us10という27から28センチのサイズのものなどが発見されております。
ここから、この足跡は被告人のものと考えて矛盾がないと言えます。
現場の凶器、そして足跡、これらから被告人の結びつきが推認されます。
以上、最初に説明した現場に残された血液のDNA型判定、そして説明した凶器と足跡と被告人の結びつき、
全ては被告人が犯人であることを示しています。これら全てが重なるのは、被告人が犯人ではないなら合理的に説明することはできない事実関係にあると言えます。

以上から、被告人が犯人であるといえます。争点については以上です。

検察官
「次に被告人に科すべき刑罰を決める上で重要な事実関係についてのご説明です。
まず、住居侵入の犯行がどんなものか、証拠からわかる犯行対応を説明していきます。
(中略)
次に、死因となった傷の状況です。
被害者の上腹部には、片の刃物による深さ13.5センチの刺し傷があり、これは
肝臓や心臓にまで達して臓器を傷つけています。
凶器の刃の長さは10センチでしたから、歯の根元まで歯に突き刺した状態だったのです。
以上の状況からは被害者の両手を緊縛し、猿ぐつわをして動きを封じようとし、被害者から激しい抵抗を受けた、
抵抗する被害者に対して刃物で激しく切りつけたこと、頭部を陶器で複数回殴打し、さらに腹部を力いっぱい突き刺したという状況が認められます。

(中略)

被害者には全く落ち度がなく、失われた公益、つまり結果は大きすぎるという点です。被害者と被告人には面識がありません。
まして、殺害される理由も落ち度も皆無です。本来最も安心して過ごすべき自宅で幼い我が子と過ごしていた時に突然襲われ、命を奪われました。
事件の時には、赤ん坊の長女が同じ帰宅内にいました。
被害者は、自らの命を絶たれた後、娘さんに命の危険が及ぶのではないかと恐怖し、絶望したのではないのでしょうか。想像に難くありません。
そして、この被害者は、35歳という若さで命を絶たれました。
突然にです。その無念はどんなに想像しても足りないものです。本件では、取り返しのつかない尊い命が奪われています。失われた公益結果、これはあまりにも大きすぎます。
3点目でございます。計画的かつ強固な犯意による犯行である、このような意思決定に対する非難の程度は甚大、極めて大きいということです。
本件の動機は分かりません。被告人が語らないからでございます。
ただ、証拠からは、事前に凶器を準備していること、被害者を緊縛して襲っていること、あらかじめ計画して実行に及んでいることがわかります。
抵抗する被害者に鋭い刃物や硬い陶器という複数の凶器で何度も執拗に攻撃しているということもわかります。
ここからは計画的であり、殺人の結果実現に向けた大きい強固な犯意があり、殺人の中でも与えるべき非難の程度は甚大というべきです。
4点目。ご遺族の悲しみが大きく、処罰意思が峻烈であることです。
先ほど被害者のお母様が心境を語られました。
残されたご遺族の皆さんが深い悲しみの中にあり、どんなに年数が経ってもその悲しみが癒えることはありません。
被害者の命を無残にも奪った被告人に対して厳しい処罰を求めるのは至極当然であり、そのお気持ちは十分に刑罰に反映されるべきでございます。
5点目です。被告人に反省の態度が全くないということです。
この裁判で明らかとなったDNAという明らかな客観証拠を前にしても、被告人は自分の犯罪は認めておりません。
また、犯行から20年以上という長期間にわたって警察に出頭せず、逃亡に及びました。
現在の被告人の供述を見る、この逃亡中に罪の意識に苦しんだり、発覚が検挙につながるのではないかと恐怖に苦しんでいたということは到底言えません。
まず、被害者の冥福を祈る姿勢も見られません。
また、この事件は今現在も報道され、風化もされていません。
反省の言葉もない被告人の態度からは、事件から長期間が経過したことは何ら有利な事情ではございません。むしろ、長期間にわたって平然と社会内で過ごしていたことを非難すべきでございます。
以上の情状を前提に、警察官が相当と考える被告人に科すべき刑の重さについて述べます。
この事件が行われた当時は平成13年2月6日でありまして、この当時の刑法の法定刑によるとされております。
そして、住居侵入と殺人の事案ですが、これは今、住居侵入を含めて殺人の刑罰の範囲内で検討します。当時の殺人の法定刑は、死刑または無期もしくは3年から15年の有期懲役刑、そして、どのような刑罰の種類を選択するかにつきましては、検察官としては、被害者の方の人数等から、
死刑あるいは無期懲役ではなく有期懲役刑を選択するということにしますと、3年から15年という有期の中での傾向となります。
検討しまして、本件は、平成16年、例えば改正後に起きた事件であれば、殺人の有期刑の上限である20年に近い量刑の分布にあると言えます。
そこで、あらためて、検察官は、刑を決める上で重視すべき事情として挙げたことをここに書いています。
これら事情を踏まえれば、本件は、その発生した平成13年当時の法定刑の上限の懲役15年を下回るものではないと考えているんです。
以上のような事情を考慮の上、被告人に科すべき刑罰について意見を述べます。
関連する法令を適用した上で、検察官は被告人を懲役15年に処するのを相当であると考えます。


*傍聴した記者の取材に基づいています。