有人の月探査計画「アルテミス2」で宇宙飛行士4人を乗せた宇宙船が月の裏側を飛行し、人類史上、地球から最も遠い地点の記録を56年ぶりに更新しました。
■NASAの博士が語る研究の意義
アルテミス計画の科学チームで責任者を務めるNASA(アメリカ航空宇宙局)のノア・ペトロ博士。月の研究を世界的にリードする科学者です。
今回のアルテミス2の先に予定される2028年の月面着陸計画で、どの地点に降り立つかの選定や月面で運用する探査機の開発を進めています。
「アルテミス」科学部門トップ ノア・ペトロ博士
「人類による月探査の目的のひとつは、月の形成の謎を解くことです。理解されたようで、細部は未解明なままです。45億年前、地球に巨大天体が衝突し、月が生まれたと言われています。その解明には、月の古い試料を入手する必要があります」
人が月に降り立ってから半世紀以上経つ間に科学が進化し、月に水が存在する可能性など分かってきたこともあります。
ただ、地球で暮らすほとんどの人にとって、月は夜空に浮かぶ、はるか遠い存在です。
■「月は地球を知るためのタイムマシン」
研究を深める意義とは一体何でしょうかとペトロ博士に聞くと、「月は、地球を知るためのタイムマシンなんだ」と言葉に熱がこもります。
「月の試料を研究することは、地球を学ぶことです。45億年の歴史と現象を読み解くことで、当時の地球の姿も見えてきます。我々は月という『タイムマシン』で、太陽系の起源をたどっているのです」
■月を知るための「道のり」
そして、月を知るための「道のり」もまた、地球にいる私たちに恩恵をもたらすといいます。
「限られた試料を分析するためには、新しい技術が必要不可欠です。月面探査機の開発で地球上の日々の生活で使う技術も進化します。月面の過酷な環境に挑むことは、地球へ技術還元する絶好の機会なのです」
そもそも、ペトロ博士が月に興味を持ったきっかけは、父親でした。エンジニアとして、アポロ計画に携わっていたのです。2代にわたって月に魅了され、バトンがつながれてきました。
「父の『人類を月に送る』という挑戦が、私の月の地質学研究の原点です。月面で何を実現できるかを追求し、再び人を送り出すことが目標です。月で太陽系の起源を探り、有人月探査の仕組みを確立すること、こうした月への情熱は、私のDNAに刻まれているものなのです」
■「壮大なミッション」
自身の任務について「多くのことが待ち受けている」と緊張を口にしながらも、その先にある壮大なミッションも見据えています。
「月では地球に依存せずに生きる術を学び、最大限活用したい。南極にあるような研究基地を月面にも展開するのです。最終的には火星にも拠点を築くことを目指しています。火星への長旅には、膨大な資源を必要とします。ただ、地球より月から出発した方がほんの少し簡単です。その手法の確立は探査にとどまらず、宇宙で生きる力を飛躍的に高めるでしょう」
※「アルテミス2」の「2」は、正しくはローマ数字