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なぜ?中国・23選手“陽性”も“公表・処分なし”東京五輪でメダル獲得も…WADAに批判

スポーツ

パリ五輪まで3カ月と迫るなか、選手たちに動揺が広がっています。2021年の東京五輪前に、中国の競泳選手23人がドーピング検査で陽性になっていたことが分かりました。選手たちは五輪でメダルを獲得するなど活躍しましたが、出場を認めたWADA(世界アンチ・ドーピング機構)に対し、「公正さを欠く」と批判の声が高まっています。


■中国側「ホテルの厨房が汚染」

ニューヨーク・タイムズ(20日付)
「中国のトップ水泳選手が禁止薬物の陽性反応が出るも、五輪で金メダルを獲得」

詳細を報じたニューヨーク・タイムズによると、発端は東京大会の7カ月前までさかのぼります。2020年末~年明けにかけ、中国の選手たちは国内の大会に出場していました。それから2カ月以上経ってから、中国側は、大会に出場していた選手たち20人以上に禁止薬物の陽性反応が出ていたことをWADAに報告しました。理由として、選手たちが滞在していたホテルの厨房に薬物が入り込んでしてしまったと主張したということです。

検出された薬物はトリメタジジン。心臓の血流を良くする効果があり、狭心症の薬として有名です。ドーピングに使えば心肺機能が向上するといいます。ただ、中国のアンチ・ドーピング機構『CHINADA』は「選手たちが故意に摂取したわけではなく、ホテルの厨房が“汚染”されていた」とWADAに説明したといいます。

ニューヨーク・タイムズ(20日付)
「CHINADAの最終報告書によれば、ホテルの厨房の排水口、調味料の容器、調理台の通気口からトリメタジジンの痕跡を発見したという。ただ、薬物がどこから来たのか、なぜ台所にあったのかは特定されなかった」

他にも、2カ月もの間、WADAへ報告しなかったことなど、中国側の対応には疑問符がつきます。しかし、WADAはその主張を受け入れました。

WADA バンカ会長
「中国側の説明をあらゆる観点から慎重に検証しました。あらゆる証拠を精査し、追加の情報収集も行いました。現時点では不正な行為の証拠はなく、彼らが主張する“汚染説”を反証する方法も見当たりませんでした」

今回のケースを白と認定したWADA。検出されたトリメタジジンが微量だったこと。複数回検査をした選手が陰性と陽性の間で変動していたことなどを理由に挙げています。

WADA医学担当 ラビン氏
「重要なことは、中国から情報提供があったことは事実だが、WADAも独自で陽性判定が出た選手の尿の分析を行ったということです。この独立した情報と検証から、汚染説を疑問視する理由は何もなかった」


■公表せず…4人がメダリストに

最終報告書という形でWADAに説明が来たのは、東京五輪開幕の1カ月前。WADAは中国選手全員を不問にし、大会出場も認め、このことを公表することもありませんでした。

翌月の東京大会。禁止薬物が検出された選手のなかで4人がメダリストに名を連ねました。意図的に摂取したのか、それとも中国の主張通りなのか、本当のところは分かりません。少なくとも、東京大会中に行われた検査では何も検出されていません。

ただ、海外では、少なくともWADAの対応に問題があったという論調が目立ちます。

英ガーディアン(23日付)
「中国水泳界のドーピング疑惑。公平性に疑問符」

ニューヨーク・タイムズ(20日付)
「中国側は微量のトリメタジジンしか検出されなかったと報告しているが、どのような量であっても検査不合格として登録され、即座に一時出場停止処分を受けるには十分だった」

これまでWADAは、薬物が微量だろうと、五輪大会期間中だろうと、違反した選手には即刻、厳しい処分を取ってきました。記憶に新しいのは、フィギュアスケートのワリエワ選手。金メダル獲得直後にドーピングが発覚し、メダルははく奪。4年間、大会への出場資格停止という重い処分が下されました。

ワリエワ選手から検出されたのも、今回と同じトリメタジジン。単純に比較はできませんが、WADAの対応に違いがあるのも事実です。しかも、今回のケースでは、コロナ禍だったことを理由に現地調査は行われていません。


■WADAに批判「公平性に疑問」

アスリートたちの批判の矛先はWADAに向かっています。

東京五輪競泳イギリス代表(3メダル獲得)アダム・ピーティのX
「透明性の欠如と秘密主義によって本当に得をするのは誰なのか?この規模であれば組織的なものであることは間違いない。WADAにはがっかりだ」

東京五輪アメリカ女子チーム監督 グレッグ・ミーハンのX
「透明性の欠如と一貫性のない対応にはあきれるばかりだ。タイミング的にもちょうど(2022年の)冬季北京五輪も控えていたというのは偶然とは思えない。選手たちはもっと公平な扱いを受ける権利がある」

米アンチ・ドーピング機構 タイガート会長
「世界中の“クリーンな選手”にとって悲劇です。例外が存在するとしても、選手を失格か暫定的な資格停止にすべきでした。このような言い分を国際的規制機関が承認してしまったことも悲劇です」


■中国政府「報道は虚偽」と否定

中国共産党系の環球時報は、パリ五輪を前に中国水泳の顔に泥を塗る行為だと伝えています。西側メディアの悪意ある報道だという主張で押し通す構えのようです。

中国外務省 汪文斌副報道局長
「WADAが、報道は虚偽の情報であり事実無根だと明確な返答をした。この報道は偽情報で事実に反する報道だ」

今後、国家による場外戦に発展するかもしれません。バイデン政権はスポーツ担当相の国際会合で、この問題を議題に取り上げる予定だといいます。


■なぜ“異例”?WADAの判断

今回のWADAの対応は、過去の事例と比べると“かなり異例”と言えるかもしれません。

競泳元日本代表の古賀淳也さんは、2018年3月に受けたドーピング検査で禁止物質が検出され、4年間の資格停止処分を受けました。

ドーピング違反の理由は、摂取したサプリメントの中に成分表示のない禁止薬物が混入していたため陽性反応が出たということです。つまり“意図的な摂取ではなかった”ということです。

古賀選手の場合は「意図的ではない」という主張が認められ、資格停止期間が2年間に短縮されました。その後、選手として復帰しましたが、2年間は出場できませんでした。

古賀選手の仲裁に関わった高松政裕弁護士に聞きました。

高松政裕弁護士
「WADAのルールとしては“陽性反応が出た場合”は処分されるのが原則。トリメタジジンの場合、意図的でなかったことは選手側が立証責任を負う。原則と違う特殊な事例だったなら、さらなる説明が必要。これからパリ五輪もある。選手たちはルールに従い努力をしている。WADAも明確な基準を示すべき」