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第19話 「少年の夢 ~後編~」

ハシビロコウ。
「動かないこと」がその特徴として知られる鳥が、動いた。
今、その巨大なくちばしが、ナマズの模型をくわえている。
もちろん、ナマズの模型をかぶっている僕の運命も一蓮托生。

「ハシビロコウ」 → 「ナマズの模型」 → 「僕」

これはダーウィンの唱えた「進化論」ではない。
小さな奇蹟が数珠繋ぎとなってできた「弱肉強食の系図」だ。

そして、遠くからカメラが僕を狙っている気配を感じた。
師と仰ぐ天才ディレクターの笑い声が湖畔にこだまする。
その時!!
ハシビロコウがその翼を羽ばたかせ、アフリカの台地を蹴った。
空気を切る翼の爆音に怯み、僕は一瞬、眼を閉じる。

ヒトガ、ソラヲトンダ

AP通信なら、この「少年の夢」を速報で打電するだろう。
しかし、耐久性に乏しいナマズの模型が食いちぎられ、僕がビクトリア湖の沖合いに落下するまでの時間は、あまりにも短く、ロイターも共同もAFPもスクープできなかった。

ボクハ、ソラヲトンダ

でも、古びた僕のロケ日誌には、そう書かれている。
少年の夢はいつか、叶うのだ。


「あなたの夢はなんですか?」
この純粋な問いに答える権利は、子供だけではない。
30歳を過ぎても、いくつになっても、嬉々として語っても良いのではないだろうか?

「素敵な花婿になりたい。」 「世界一周してみたい。」 「立派な父親になりたい。」
「月面に上陸したい。」 「暖かい家庭を作ってみたい。」 「映画を撮ってみたい。」

日常と非日常。栄光と挫折。そして、現実と夢。
もしかしたら、この相反する対立軸は、実際にはどこかでリンクし、常に「準備」している者のみに、その場所の行き来を許すのかもしれない。
そんな「対儀現象」の体験者こそが、ヒーローなのだろう。

夢を叶えた者に与えられるヒーロー・インタビュー。
もしいつか、その舞台が僕に用意されるなら、その時は、この原稿を世界中に打電して欲しい。


ユメニオワリハナイ
ソノツヅキヲ、ボクハミタイ
キミト、イッショニ

  • 11月11日生まれ
  • A型 さそり座
  • ICU 教養学部 数学専攻卒
  • 銀行員からTV業界へ転身した異色ディレクター
  • 好きな食べ物 すき焼・チョコレート・メロン
  • 好きな言葉 「移動距離とアイデアの数は比例する」
  • 将来の夢は直木賞作家
  • 現在、花嫁募集中

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