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第8話 「僕と彼女の物語 ~前編~」

10年前を一昔とするならば、これはちょうど一昔前の「物語」である。


あの頃、僕と彼女は恋をしていた。桜の開花とともに実を結んだ甘い果実。それはそれはとてもスウィートな時間が二人には流れていた。しかし、目前に迫った 大学生の夏休み。その長い長い夏休みを二人は違う環境で過ごさなければならなかった。勉強熱心な彼女は、フィールド・ワークのためカナダのバンクーバー へ。好奇心旺盛な僕は、武者修行のためアメリカのロサンゼルスへ。恋焦がれる二人は、国境を越えて離れ離れになってしまったのだ。そこで、僕と彼女は休暇 を利用し、中間地点であるサンフランシスコで会う約束をした。


8月14日正午。
サンフランシスコのユニオン・スクエアにあるセント・フランシスで待ち合わせ。


ここまでなら、よくある話なのかもしれない。
しかし、遊び心のある僕と彼女は、二日前の8月12日、共にサンフランシスコに到着している。つまり、48時間以内にサンフランシスコでお互いを探し合お うという企画を考えたのだ。1秒でも早く会いたいのが恋する二人の心情。早く見付けることができたなら、二人で過ごす時間は長くなり、もし万が一、見付け ることができなくても、8月14日の正午にはセント・フランシスで会えるのだ。


舞台はサンフランシスコ。タイム・リミットは48時間。恋する二人の探し合いが始まった。


8月12日。僕はサンフランシスコ国際空港ドメスティック・カウンターに到着した。早速、最終待ち合わせ場所であるセント・フランシスを確認することに。 もちろん、この老舗高級ホテルのラウンジに彼女の姿は無かった。そして、彼女がどこにいるか想像した僕はオープンカーをレンタルし、カリフォルニア州立大 学のバークレー校へ向かう。地理の教科書でしか見たことのなかったゴールデンゲートブリッジを渡り、カリフォルニア湾を望みながら。そして、バークレー校 の中にある教会へ。実はこの教会は、映画「卒業」に登場するあの有名な教会なのだ。


「この二人って10年後も幸せなのかな?」


ビデオ鑑賞デートで、映画「卒業」を二人で見た後に、彼女がこぼした一言。ダスティン・ホフマンの名演技に感動しっぱなしの僕は、「もちろん、永遠にハッ ピーさ」と答えただけなのに、彼女は僕から目線を外した。そんなことを思い出しながら僕はまるで勇者の如くその教会の扉を開く。しかし、彼女の姿は無い。

「彼女はどこにいるのだろう?」


僕の意識の中で、彼女はどんどん大きくなっていく。
もしこの広いサンフランシスコで出会えるならば、それは運命かもしれない。
もし見つけられなかったら僕たちの関係って一体なんなのだろう?
僕は、焦りにも似た感情を抱きながら、サンフランシスコ市内へと戻った。

~つづく~

  • 11月11日生まれ
  • A型 さそり座
  • ICU 教養学部 数学専攻卒
  • 銀行員からTV業界へ転身した異色ディレクター
  • 好きな食べ物 すき焼・チョコレート・メロン
  • 好きな言葉 「移動距離とアイデアの数は比例する」
  • 将来の夢は直木賞作家
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