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第15話 「家族の形」

僕の実家は、瀬戸内海に浮かぶ小さな島にある。
その島の名は、因島。僕の故郷だ。
生口大橋を望み、みかん畑の丘の上に立つ白壁の家。
そこには、大らかな父と、朗らかな母が、今も暮らしている。

僕はもう人生の半分近く、実家を離れて生きてきた。
そんな僕は、年に1度しか帰らない。
それでも、父と母は、帰省の度に笑顔で迎えてくれる。
幼き頃と変わらない真っ直ぐな愛情で。

親不孝。
その言葉の重さを初めて知ったのは大学生の頃。
だから、僕は実家に残せるものを作ろうと思った。
そして、ある夏の里帰り。
僕は汗を流しながら、土と格闘していた。

庭を造る。

僕は実家の駐車場の脇に、小さな庭を造ろうと考えたのだ。
レンガを切り落とし、幾何学的に並べていく。
養分たっぷりの土を敷き詰めていく。
慣れない作業と、夏の暑さ。
僕の汗が、できたての庭にしたたり落ちた。
不肖の息子に麦茶を差し出す母。それを遠くから見つめる父。
なんだか、久しぶりの家族みたいだった。

その年、僕は「ガジュマルの木」を贈った。
次の年は、「バラの花」を贈った。
それから毎年、僕は、「根」のある植物を贈っている。
朝夕と庭に水を撒く父。草木に話しかける母。
手作りの庭。
そこからまた家族の繋がりができたのだ。

そして、不思議なことも起こった。
僕が仕事でうまく行かない時は、ガジュマルの木は萎れ、
僕が恋愛でうまく行かない時は、バラの花は咲かなかった。
そんな時、大らかな父と、朗らかな母はいつもと変わらない愛情を庭に注ぐ。

今年の夏の庭。
向日葵が太陽を真っ直ぐ見つめていると、母から電話で聞いた。
なんだか、仕事も恋もうまくいく気分になってきた。

僕たちの家族は遠く離れているかもしれない。
しかし、庭に花々が咲き誇っている限り、僕たちは繋がっている。

僕もいつかこんな「家庭」を作ってみたい。

  • 11月11日生まれ
  • A型 さそり座
  • ICU 教養学部 数学専攻卒
  • 銀行員からTV業界へ転身した異色ディレクター
  • 好きな食べ物 すき焼・チョコレート・メロン
  • 好きな言葉 「移動距離とアイデアの数は比例する」
  • 将来の夢は直木賞作家
  • 現在、花嫁募集中

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